「バイクに感謝、そして交通安全祈願のために祈りましょう」と提唱したのが、能楽師の大倉正之助さんです。大倉さんは大鼓(おおつづみ)奏者で重要無形文化財総合認定保持者です。そんな大倉さんは大のバイク好き、国内はもとより世界各国にバイク仲間がいます。大倉さんの呼びかけに、やはりバイク好きの文化人、学者などが呼応しました。
こうして実現したのが8月19日のバイクの日に箱根神社で行なわれた「オートバイ文化奉祝祭(ほうしゅくさい)・交通安全感謝祭」です。大倉さんは神前で大鼓を打ち、仲間とともに奏でた演奏を奉納しました。
参加者には、レジェンドライダースクラブの水谷勝役員、北川圭一会員、そして片山敬済さんも加わり、清めの比礼(ひれ)をまとい、本殿に昇殿してお祓(はら)いを受け、玉串奉奠(たまぐしほうてん)を行いました。
御神前でのお参り後は、神楽殿(かぐらでん)前に駐車させたバイクにお祓(はら)いを受け、神馬(しんめ)に見立てたそれぞれのバイクにまたがり、御旅所(おたびじょ)となったライダーズパラダイス南箱根までの約5kmを乗馬(車)しました。
神事を無事終えた一行は、ライダーズパラダイス南箱根で奉祝祭を見学に来たライダーたちと交流、夕方からはオートバイ文化人倶楽部発足記念ライブが開催されました。
オートバイ文化奉祝祭を司った箱根神社の小澤修二宮司
「箱根道はいにしえより交通の難所でした。時の武将が道中安全祈願にいらした記録が残っています」。源頼朝や徳川家康も参拝に訪れたそうです。そんな話を聞くとライダーが箱根神社を詣出ることは自然の導きだったのかもしれないという気になります。宮司も若かりし頃はメグロに憧れ自動二輪免許を取得、実際にはラビット90でよく走ったそうです。「みなさんの声はしっかりと神様にお届けしました」。
箱根神社からライダーズパラダイス南箱根までのオートバイ神馬巡行ツーリングは「伊豆スカ事故ゼロ小隊」のKAZU中西さんたちが先達しました。
「伊豆スカイラインはオートバイ事故が増え、二輪通行禁止が謳われたことがありました。『禁止するのではなく、ライダーに対して安全の呼びかけや指導で事故を減らしましょう』と隊を結成しました。警察や地域と連携し活動した結果、事故が減少。通行禁止をまのがれることが出来ました」
奉祝祭にはオートバイ・ツーリング・クラブ、二輪睦八咫烏(やたがらす)事務局の竹花眞一さんも参加しました。
「毎年ゴールデン・ウィークに、和歌山県の熊野本宮詣ツーリングを実施しています。クラブ名の八咫烏は、神武天皇の前に降り立ち、熊野本宮から奈良の橿原(かしはら)まで先導したと伝わっており、道中安全を見守る象徴として使わせていただきました」。クラブ名の使用は熊野本宮から正式に許可を得たもの。大倉正之助さんはこのクラブの会長も引き継いでいます。
水谷 勝役員
「大倉さんとは10年以上のお付き合いになります。毎年ゴールデン・ウィークには大倉さんはじめ二輪睦八咫烏のみなさんと熊野本宮詣ツーリングに参加しています。今年も祈祷させていただきました」
片山敬済さん
「平成5年の皇居事始に、大倉さんのお声がけで双輪舞を舞ったことがあります。これがきっかけとなりいくつかの神社で舞を奉納させていただきました。それ以前からの付き合いなので、ずいぶん長いお付き合いをさせていただいています」
北川圭一会員
「大倉さんとの出会いは鈴鹿8時間耐久オートバイレースの公式プログラムでの対談です。KENZ! で全日本を走っていた頃です。それから、よくツーリングに誘っていただき一緒に走っています」
当日の天気は快晴、箱根から澄んだ空気の向こうに富士山を眺めることができました。神事に参加したライダーたちの顔がすがすがしさに満ちています。大倉さんのオートバイ文化を作る催しは、当日発足した「オートバイ文化人倶楽部」の事務局主催により来年もバイクの日に箱根神社で行なわれるそうです。
事務局:古谷重治記